40代になると、自身のセカンドキャリアを考え、「早期退職制度」について検討する人も少なくありません。

早期退職制度を利用し、新たな挑戦を考える人がいる一方で、「このタイミングで早期退職制度を利用してよいのか?」と不安を抱える人もいます。早期退職制度にはいくつか種類があるため、制度の概要を理解し注意点も把握しましょう。

この記事では、早期退職制度のメリット・デメリットを社員・会社の双方の視点から解説します。早期退職の注意点もまとめたので、早期退職後に後悔しないよう参考にしてください。

この記事の監修:勝田健氏
スタートアップ企業に特化した転職エージェントに従事。大手VCと連携し、累計約100名のCxOポジションに紹介実績あり。転職エージェント歴22年。スタートアップ業界の豊富な人脈(VC・起業家・CxO)と知見が強み。個人の「WILL」をベースとしたキャリア支援実績は累計2000名以上。スタートアップ企業の採用支援経験を活かし、自らも複業(結婚相談所・採用コンサルティング・新規事業起ち上げ支援)を実践。幅広い業界・サービスのビジネスモデルを熟知。

「早期退職制度」とは

早期退職制度とは、「企業が退職希望者を募集し、定年前に従業員へ退職を促す制度」です。企業によっては、業績が低迷したときに人件費削減や、事業規模に合った人員構成を目指すための手段として使われたりします。

早期退職制度は主に40代や50代で利用する人が多く、「希望退職制度」と「選択定年制度」の2種類に分類されます。それぞれ失業保険の待期期間や受給期間が異なるので、制度を正しく理解することが重要です。

「希望退職制度」は会社都合の退職

希望退職制度とは、会社が従業員の主体的な退職を募る仕組みです。「人員削減」が主な目的となり、目標人員を定め期間を決めて実施されます。希望退職制度は会社都合の退職となるため、通常の定年より優遇された条件で退職できることが多い傾向です。

厚生労働省によると、会社都合の場合は給付制限期間がなく、待期期間終了後すぐに受給の手続きが可能になります。自己都合退職の給付日数は「90〜150日」ですが、希望退職制度では「90〜330日」と、給付日数が長いのも特徴です。

「選択定年制度」は自己都合の退職

選択定年制度とは、所定の定年年齢に達していない状態で退職を申し出た場合に、会社から優遇される制度のことです。希望退職制度と異なる点として、選択定年制度は「自己都合の退職扱い」になります。

選択定年制度では、従業員の意志で定年のタイミングを選択できます。選択定年制度を利用することでセカンドキャリアの選択肢が増えるため、有効活用すれば魅力的な制度です。

一方で、企業によっては一定の年齢に達した段階から給与の水準が下がる場合もあるため、自身のキャリアプランから逆算して、定年時期を考えておかなければなりません。

企業の早期退職に関する動向

東京商工リサーチの調査によると、2021年に希望・早期退職者の募集を開示した上場企業は84社で、15,892人です。

早期・希望退職者募集を開示した業種はアパレル・繊維製品が最も多く、ついで電気機器や観光を含むサービスなどの業種が高い傾向でした。

昨今のコロナ禍で、早期退職を実施する企業は「黒字企業による大型・先行型の募集」と「赤字企業による小・中規模募集」の二極化が加速しています。

2021年に募集した84社のうち、半数以上の47社は直近本決算で赤字を計上しましたが、1,000人超えの大型募集をした5社ではその内4社が黒字でした。

今後も国内の早期退職の二極化は継続すると考えられることから、企業の早期退職は業績に関係なく、誰にでも起こりうる事象なのです。

早期退職のメリット

早期退職のメリット

早期退職に直面したときに後悔しないためにも、正しい知識を身につけておく必要があります。ここでは、早期退職をすることで発生するメリットを「社員」と「会社側」の観点で解説していきます。

社員のメリット

早期退職をすることで社員が受けられるメリットは、主に以下の4つです。

  • 退職金の割り増し
  • キャリアと向き合う時間の増加
  • 会社都合での退職扱い
  • 再就職支援を受けられる可能性

それぞれのメリットについて、詳しく解説します。

退職金が割増になる

退職金は通常会社の就業規則の規定で金額が決められていますが、早期退職は会社都合の退職になるため、割増される場合があります。

退職金が割増になれば、これまでの知識や経験を活かして、セカンドキャリアを形成するための準備金にもなります。

割増退職金の支給金額は、従業員の退職時の年齢や勤続年数、企業の業績などにより変動するため、正確な金額については事前に確認しましょう。

今後のキャリアを考える時間が増える

早期退職をすると自由に使える時間が増えるため、セカンドキャリアのスタートに備えられます。早期退職後のキャリアとして想定されるのは、以下のような例です。

  • 別の会社に転職する
  • 副業(複業)をはじめる
  • 独立起業する

早期退職後の時間を有意義に使える人は、早期退職後の人生が好転する可能性があります。早期退職後の時間を使って、今後のキャリアをどのように形成していくのか、明確にしましょう。

会社都合の退職扱いとなる

早期退職制度には「希望退職制度」と「選択定年制度」があり、前者であれば会社都合退職となることを覚えておきましょう。

「会社都合」もしくは「自己都合」のどちらの退職扱いになるかで、失業給付金の受給に大きく影響します。希望退職制度は会社都合の退職扱いになるため、離職日の翌日から7日間の待期期間を経てすぐに失業手当の手続きに移行できます。

また、特定受給資格者に認定されると、自己都合退職時と比べ、給付期間が長くなる可能性が高いです。一方選択定年制度では自己都合の退職扱いとなるため、7日間の待期期間後に2カ月間の給付制限期間が発生します。

給付制限期間が発生すると、その間は自分の貯金を崩して生活していかなければなりません。どの制度を利用するかで条件は異なるため、注意しましょう。

再就職支援を受けられる可能性がある

企業によっては、再就職支援を実施するケースがあるため、さらなるキャリアアップを目指す人にとって早期退職制度は魅力的と言えます。

昨今では、早期退職者のケアの一環として、再就職支援が注目されています。早期退職者は再就職支援を受けることで、キャリアの道筋をつけて退職できる可能性があるため、退職後の不安が軽減するのです。

再就職支援を利用すれば、専任のキャリアコンサルタントがパートナーになります。自己分析や面接練習に付き合ってくれるため、精神的にも安定した状態で就職活動を進められます。

会社側のメリット

会社側のメリットとして、どのようなものがあるのでしょうか。早期退職をすることで会社側が受けるメリットは、主に以下の2つです。

  • 人件費の削減
  • 社内の若返り効果への期待

人件費を削減できる

早期退職をすることで会社側に発生するメリットは、人件費の削減です。企業の業績が悪化すると、人件費の削減に乗り出す企業が多くなります。早期退職者の希望を募ることで、トラブルなく人員整理をおこなえるのです。

年功序列の企業だと給与体系において、若年層よりも定年に近い40代や50代の方が高くなります。これを踏まえ、人件費の削減を目的として早期退職をおこなう企業が増えているのです。

社内の若返り効果を期待できる

早期退職をすることで会社側が得られるもう一つのメリットは、社内の若返りを図れることです。40代や50代の早期退職を募ることで、若年層の割合が高まります。

若年層の割合が高まると、従来の日本企業に多い「年功序列」ではなく、「実力主義」の社風を根付かせる可能性があるのです。

また、早期退職制度を活用することで、40代や50代が前向きに社外への転進を選ぶケースも増えています。40代や50代が社外への転進を選ぶことで、若年層の活躍の機会が増え、社内の若返りにもつながるのです。

早期退職のデメリット

早期退職のデメリット

ここまで、社員側と会社側それぞれのメリットをあげてきました。次に早期退職をすることで起こりうるデメリットについて解説していきます。

社員のデメリット

早期退職をすることで社員側に発生し得るデメリットは、主に以下の3つです。

  • 定期的な収入の減少
  • 無職期間の長期化
  • 年金の受給金額の減少

定期的な収入がなくなる

早期退職をすると、定期的な収入がなくなります。定期的な収入がなければ、再就職先が決まるまで退職金や失業手当、今までの貯金から生活費を捻出しなければなりません。

早期退職者の中には再就職先での収入アップを目指すものの、新しい就業先が決まらず、転職活動が長引いてしまう人もいます。

離職期間が長くなるほど再就職は難しくなるため、収入面を考えたうえで早期退職するかどうか見極めましょう。

退職前に十分な貯金を蓄えたり、退職後の収入源を考えたりすることで、精神的にも経済的にも安定した状態で転職活動に挑めます。

無職期間が長引くケースがある

40代や50代で早期退職した場合、無職期間が長引くケースがあるのも早期退職のデメリットです。

厚生労働省によると、40代や50代の転職入職率は若年層と比べても低い傾向です。転職入職率とは、過去1年以内に他の会社で勤めていた人が入職した割合を表します。

特に男性の転職入職率は、40代から50代にかけて右肩下がりになっており、「50〜54歳」の転職入職率は各年代で最も低く4.2%です。

このことから、40代〜50代では早期退職後に転職活動をすると、長引く可能性が想定されます。早期退職後に転職を考えている人は、無職期間が長引くケースも頭に入れておきましょう。

年金の受給額が減る可能性がある

早期退職をすることで、年金の受給額が減る可能性もあります。会社を退職すると、厚生年金から国民年金へ切り替わります。年金には「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」の2種類あり、それぞれの特徴と支給額が下がるケースを把握しておかなければなりません。

老齢厚生年金の支給額は、年金をもらい始めるまでの平均給与と加入月数によって決まることを覚えておきましょう。仮に55歳で早期退職をして次の転職先が決まらなかった場合、10年分の加入月数が減ることになるので、年金支給額は減額されます。

また老齢基礎年金の支給額は、20歳から60歳までの保険料納付月数によって決まることを把握しておきましょう。仮に55歳で早期退職して国民健康保険料を支払わなかった場合、5年間の未納が発生するため年金支給額は減ります。

早期退職で年金支給額が減額される可能性があることを事前に理解しておきましょう。

会社側のデメリット

早期退職制度を導入する場合、会社側はデメリットも踏まえたうえで実施しなければなりません。早期退職をすることで、会社側に発生し得るデメリットは以下の2点です。

  • 一時的な支払いの増加
  • 優秀な人材が流用する可能性

一時的に支払いが増える

早期退職は、長期的にみると人件費を削減できるメリットはありますが、一時的に退職金の支払いでコストがかかります。退職者の人数が多くなるほど、コスト負担が大きくなるのです。

資金が少ない状況で企業が早期退職を実施してしまうと、逆に経営を圧迫します。

特に優遇措置として「退職金の割り増し」を提示している企業は、行き過ぎた人員整理をおこなおうとしていないか、十分に考えましょう。

優秀な人材が退職する恐れがある

企業側の早期退職のデメリットとして一番大きいのは、優秀な人材が退職する恐れがあることです。有利な退職条件を提示すると、企業に残ってほしい人材まで退職してしまう恐れがあります。

優秀な人材の中には、キャリアアップを狙って再就職を目指す人もいるでしょう。優秀な人材が早期退職を希望すると、会社としては大きな痛手です。

企業はコストカットを考えるだけではなく、人材の質が落ちた結果、将来的な業績に影響する可能性も考えなければなりません。

早期退職する際の3つの注意点

早期退職後に有意義なキャリアを形成するためには、早期退職前の準備が欠かせません。早期退職を決めてから後悔しないよう、早期退職希望者は以下の点に注意しましょう。

退職するまでに充分な貯金をしておく

早期退職を検討するのであれば、退職までに充分な貯金をしておく必要があります。早期退職をすると定期的な収入源がなくなるため、これまでの貯金で生活費を工面する必要があるからです。

公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、世帯主が60歳から64歳の夫婦の老後生活資金として「月平均20.2万円」が必要と考えられています。同条件で65歳以上の場合は、「月平均16.1万円」が必要資金です。

また、同調査では老後の生活資金をまかなうための準備手段として、「預貯金・貸付信託・金銭信託」と回答した人が全体の41.2%と最も多い回答でした。

早期退職を検討するのであれば、老後の生活資金のことも考え、若いうちから貯金しておきましょう。

退職金の支給額と受け取り方法を確認する

早期退職希望者は、退職前に退職金の支給額と、受け取り方法を確認しておきましょう。退職金の支給額は企業によって異なるため、勤務先の就業規則を確認する必要があります。

退職金の主な受け取り方は3パターンです。

  • 一時金タイプ
  • 年金タイプ
  • 退職一時金と年金の併用タイプ

企業から一括で退職金が支払われる一時金タイプは、経営状況に関係なく支給されます。年金タイプは退職金を年金としてもらえて、長期間で受け取るほど受け取り総額が上がります。

併用タイプは活用の仕方次第で税の負担を減らせるのが特徴です。うまく活用しないと受取総額が増えないのに、負担する税の金額が高くなる可能性があります。

退職金の受け取り方法は企業ごとに指定されているので、在職時によく確認しておきましょう。

退職前にキャリアプランを決めておく

早期退職をする前に今後のキャリアプランを決めておくことで、早期退職後も有意義な生活を送れます。早期退職制度がどれだけ充実していても、その後のキャリアプランがしっかり練られていなければ、早期退職後に後悔するケースも少なくありません。

早期退職後のキャリアプランは人によってさまざまです。転職や副業(複業)、独立起業など自分に合ったキャリアプランを考えて、早期退職すべきか真剣に考えておきましょう。

早期退職制度を導入する時の注意点

早期退職制度を導入するときは、制度の目的を明らかにして設計・実施しなければなりません。ここでは、早期退職制度を導入する時の注意点を解説していきます。

従業員の企業への愛着の低下に注意する

早期退職制度を導入する際、従業員の企業への愛着が低下しないよう気をつけましょう。早期退職制度の導入は、社員から見ると「企業の業績が悪化しているのではないか」と思われる可能性があります。

従業員の士気が低下するため、制度を導入する際にはあらかじめ社員に制度内容と制度導入の意図を説明することが大切です。

従業員のキャリア自律の視点で他の制度も整備する

早期退職制度だけではなく、従業員のキャリア自律の視点で他の制度も整備していきましょう。早期退職制度導入時には、就業規則に記載をしたり退職金規程を作成したりする必要があります。

早期退職制度は、企業によって制度導入の目的に違いがあり、目指す効果も異なります。男女雇用機会均等法など、守すべき法規が多いため、早期退職制度を導入する際には、専門家に相談し自社に合った制度設計をしなければなりません。

人材と一緒に情報が流出しないよう注意する

早期退職を促すことで、人材と一緒に情報が流出しないよう注意しましょう。早期退職制度を利用する社員の中には、同業他社や業種の近い企業へ転職する人も少なくありません。

人材と一緒に機密情報が流出しないように注意しましょう。退職する社員との間で秘密保持契約を締結したり、秘密保持に関する誓約書を提出させたりすることで情報の流出を防げます。

早期退職する上で重要な「キャリア自律」の考え方

早期退職を検討する際、「キャリア自律」の考え方を身につけておくことが大切です。キャリア自律とは、「キャリアについて主体的に考え、自らキャリア開発をおこなうこと」です。早期退職したあともキャリアや生活は続くため、キャリア自律は重要になります。

今後のキャリアを有意義なものにするために、40代や50代は転職だけではなく、会社に依存しない「キャリア自律」についても考える必要があります。

代表的なものは、副業(複業)や独立起業です。いきなり独立起業をおこなうのはハードルが高いため、まずは今までの経験を生かして「複業(副業)」を始めるのがおすすめです。

40代や50代は早期退職後も会社に依存するのではなく、自分自身でキャリアを自律させていく工夫をしていきましょう。

まとめ

早期退職にはメリットとデメリットがあり、早期退職希望者はそれぞれの仕組みを理解しておかなければなりません。

社員側のメリットとして、退職金の割り増しや再就職支援の利用など、制度の充実があげられます。デメリットとしては、早期退職前から準備をしておかないと、将来的に精神的にも経済的にも不安定になってしまう可能性があることです。

企業側のメリットには、人件費の削減や社内の若返り効果、社風の改善などがあげられます。一方で、デメリットとして一時的に支払いが増えたり優秀な人材が退職する恐れがあります。

自分にとって最適な早期退職のタイミングを決め、キャリアプランを形成していきましょう。