キャリア自律とは、主体的に自身のキャリア開発に取り組むことです。

終身雇用や年功序列など従来の働き方が見直されるようになり、労働者が企業に依存できない環境への変化が続く今、キャリア自律の重要性が増しています。企業に頼ることなく、キャリア自律を実現することで、長期的に理想のキャリアを築ける可能性が高くなります。

逆にキャリア自律の考え方を理解しないと、いつまでも企業に依存し、さらなるキャリアアップが難しい状態に陥ってしまうかもしれません。

この記事では、キャリア自律が求められる背景や実現するステップ、企業の取り組みなどについて紹介していきます。

この記事の監修:勝田健氏
スタートアップ企業に特化した転職エージェントに従事。大手VCと連携し、累計約100名のCxOポジションに紹介実績あり。転職エージェント歴22年。スタートアップ業界の豊富な人脈(VC・起業家・CxO)と知見が強み。個人の「WILL」をベースとしたキャリア支援実績は累計2000名以上。スタートアップ企業の採用支援経験を活かし、自らも複業(結婚相談所・採用コンサルティング・新規事業起ち上げ支援)を実践。幅広い業界・サービスのビジネスモデルを熟知。

記事の目次

キャリア自律とは

キャリア自律とは

まずはじめに、キャリア自律の概念に対する理解を深めておきましょう。

ここでは、キャリア自律の概念と「自律」「自立」の違いについて解説していきます。

キャリア自律とは

キャリア自律は、1990年代後半にアメリカで提唱され始めた概念です。

産業・組織心理学会は研究論文の中で、キャリア自律を以下のように定義しています。

自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに、環境変化に適応しながら、主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでいること

いままでのキャリア形成は、企業内での実務や研修によって、少なからず企業に依存していました。しかし、転職が活発になり、人材の流動性が高まる今、個社ごとに最適化されたキャリアプランだけではなく、幅広い可能性を見据え、自律的にキャリアを形成していく力が求められています。

キャリア自律では「個人が主体的・継続的に取り組む姿勢」がポイントです。企業から与えられる機会に頼るのではなく、自分の意思でキャリア形成しようとする積極的な姿勢がキャリア自律といえます。

「自律」と「自立」の違い

「自律」と「自立」は混同されやすい言葉ですが、行動する人の心構えに大きな違いがあります。「自律」と「自立」の意味は辞書では以下のように区別されています。

自律自分の行為を主体的に規制すること。外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること。(広辞苑より)
自立他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。(広辞苑より)

自律は、自分の意志にもとづいて自己コントロールし、自らアクションを起こしていく能動的な姿勢です。対して自立は、他からの助けを借りずに自分で行動するという状況を示しています。

キャリアにおける「自律」と「自立」をまとめると下記のようになります。

キャリア自律自己実現に向け、自らの意思で能力やスキルを伸ばそうとする積極的な姿勢
キャリア自立自分で行動できているという状態

キャリア自律が求められる背景

なぜ今、キャリア自律に大きな注目が集まっているのでしょうか。キャリア自律が求められる背景として、下記の5つの要因を解説していきます。

  • 日本の雇用制度が変化
  • ジョブ型雇用の推進
  • 人生100年時代による就労の長期化
  • 技術革新により、スピードが増す社会の変化へ対応する必要性
  • 働き方の多様化による、企業と個人の関係性の変化

日本の雇用制度が変わりつつある

1990年代、日本では経営破綻やリストラが立て続けに起こり、企業に入れば定年まで安泰という終身雇用の概念は崩壊します。

日本の人材開発は「自社に合った人材を育てる」という視点で行われており、企業が敷いたキャリアのレールを社員が歩むという企業主体の教育が主流でした。

社員が定年まで働くことを前提にキャリアをコントロールしていたため、年齢や勤続年数に応じて昇給・昇進する年功序列が一般的だったのです。

しかし、近年は実力を評価し、それに伴う給与や役職を獲得できる成果主義の導入が広がっています。

成果主義では自分の実力次第で待遇が変わるため、継続的に自分を成長させていかなければ、生き残っていくのは厳しいでしょう。

成果主義が浸透し、日本の伝統的な雇用制度から新たな形へ変わりつつある今、自分の意思でキャリアを切り開こうとするキャリア自律が求められているのです。

ジョブ型雇用が推進されるように

かつて多くの企業で導入されていた終身雇用の崩壊が進み、新たにジョブ型雇用が広がっています。

ジョブ型雇用とは、企業が明確な職務内容を提示し、その職務にふさわしいスキルや経験がある人を採用する制度です。

パーソル総合研究所の調査によると、約60%の企業がジョブ型雇用を導入済・導入検討中としており、浸透率の高さを表しています。

参考:パーソル総合研究所「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」

ジョブ型雇用は、担当業務や責任の範囲、労働条件も明らかにした上で雇用契約を結ぶので、契約内容に含まれない異動・転勤やポジション変更は基本的にありません。

日本的な雇用では、担当業務などが曖昧な総合職として採用され、さまざまな業務の割り振りにより幅広い経験ができる反面、希望する仕事ができるかどうかは企業に委ねられています。

ジョブ型雇用が浸透すると、希望する仕事に就くためには、自分の意思で積極的に必要なスキルを身につけ、ポストを勝ち取らなければなりません。

キャリア自律は、ジョブ型雇用の推進によって注目度が高まっていると言えるでしょう。

人生100年時代による就労の長期化

人生100年時代の到来により、定年が延長され、勤労年数が増えることが見込まれる中、自分の意志に沿ったキャリアを実現するためにもキャリア自律が求められています。

2021年4月に施行された「高年齢者雇用安定法」では、65歳までの雇用義務に加えて、70歳までの定年引き上げや、雇用継続制度などが企業の努力義務として設定されました。

参考:厚生労働省「高齢者雇用安定法」

70歳まで就労の機会を得られるものの、役職定年や雇用形態の変更などでポジションや業務内容、待遇面の変化にも対応しなければなりません。

環境が変わってもモチベーションを下げずに社会で活躍できるように、人生100年時代を見据えて自分のキャリアと向き合う必要があります。

生涯を通じて求められる人材であるために、キャリア自律が求められているのです。

技術革新が早く、社会の流れについていく必要が高まっている

スピードを増すテクノロジーの革新が、キャリア自律を促す要因のひとつと考えられます。

近年、テクノロジーの飛躍的進歩により、さまざまな業界でビジネス環境が大きく変化しており、AIやRPAなどの技術の導入も進み、企業内ではさらに業務効率化が進んでいます。

厚生労働省の調査では、AIの発展について下記のような結果になっています。

現在 40 歳前後の大卒以上のホワイトカラーのうち5 割以上の人について、2030 年には担当業務の一部が AI などで代替されると考えられている

参考:厚生労働省「IoT・ビッグデータ・AI 等が雇用・労働に与える影響」2017年

このようにテクノロジー化が進む状況において、技術のトレンドを抑え、人間の介在価値をしっかりと理解しましょう。

だからこそ、社会の流れについていく必要性があり、環境の変化へ柔軟に対応するためのキャリア自律の重要性が高まっているのです。

働き方が多様化し、企業と個人の関係性が変化しつつある

働き方の多様化や、企業と個人の関係性の変化もキャリア自律を後押ししています。

働き方改革をきっかけに、企業で正社員として所属する以外にも、働き方の選択肢が増えました。

  • 副業
  • 兼業
  • フリーランス
  • 独立起業

働き方の多様化においては、企業が人を雇うという日本的な関係から、仕事と人が契約するという関係性に変化しつつあります。

そのため、自分のライフスタイルに合った働き方を自らの意思で選ぶ必要性の高まりから、キャリア自律が求められるのです。

キャリア自律を実現する5つのステップ

キャリア自律を実現する5つのステップ

ここまで、キャリア自律の定義と求められる背景や重要性についてお伝えしてきました。

キャリア自律の重要性を理解できたところで、次はキャリア自律を実現するための5つのステップをご紹介します。

なりたい自分の姿を具体化する

キャリア自律の実現のために、まず取り組むべきことはなりたい自分の姿を具体的に描くことです。

なりたい自分の姿と現状のギャップを把握できると、どのようなスキルや経験を得ればよいのかを逆算できるようになり、目標やマイルストーンが設定しやすくなります。

目標が定まらないままでは、何に向かってどのように進めるかの計画を立てられず、実際の行動には移しにくいでしょう。

将来像は半年後や1年後の短期的なイメージだけでなく、5年後・10年後の自分の姿を中長期的に具体化し、キャリアの目標を立てておくとよいでしょう。

社会の変動を理解する

自らがキャリアを選択し、キャリア実現を実現していくには、変動する社会のトレンドをしっかりと理解する必要があります。

例えば、現在社会ではSDGsやESGに注目が集まり、企業や個人が環境や社会の持続可能性にどれほど貢献できるかが重要になっています。

また、AIなどのテクノロジーの導入が進む中、デジタル技術によってさまざまな業界で変革が起きています。現在の当たり前も5年後には当たり前ではなくなっているかもしれません。

人口減少は見逃せない社会課題となっています。労働者数が減り、高齢者の数が増える中、新たな日本社会をどのように実現するか、一人ひとりが考えて行動していかなくてはなりません。

キャリア自律を実現するには自身の社会の中での市場価値をいかに担保できるかの視点が重要です。社会の変動をしっかり理解することがキャリア自律に繋がります。

自分の強みをキャリアや経験から分析する

キャリアの実現のためには、自分の強みを明確にするために、今まで築いてきたキャリアの中で得た経験やスキル、知識を分析しましょう。その際には、具体的な数字などをもとに定量的に分析すると、人に伝える際に納得感を持っていただきやすくなります。

キャリアの棚卸しは、自分ひとりで作業してもよいですが、キャリアコーチングやカウンセリング、メンター制度を利用するのもおすすめです。

第三者にサポートしてもらうことで、客観的な視点からアドバイスを受けられるので、自分では気付きにくいことも発見できるかもしれません。

キャリアコーチングやカウンセリング、メンター制度を有効に利用し、自分の強みをしっかり分析しておきましょう。

自分に足りないスキルや経験を分析する

キャリアや経験から強みを見つけたら、次は自分に足りないスキルや経験を分析しましょう。

将来ありたい姿や大切にしたいライフスタイルを実現するために、何が不足しているかを把握しておくのが大切です。

  • ポジションアップを目指すためのマネジメント経験が少ない
  • 専門スキルの証明となる資格を持っていない
  • 新しく挑戦したい分野の知識が足りない

目標と現在地のギャップを認識し、自分に足りないスキルや経験を明確にしておくことが大切です。

強みを生かしながら足りないスキルや経験を得られるキャリアプランを考える

足りないスキルや経験を得るために、自分の強みが活かせるキャリアプランを考えてみましょう。

現職では足りないスキルや経験を得るのが難しい場合は、転職によって習得するチャンスをつかむ可能性が高められます。

本業と異なるジャンルのスキルや経験が欲しい場合は、転職にこだわらず、複業としてスタートすることも検討してもよいでしょう。

小さくはじめることで、知識を得たばかりであっても実践に移すことができ、理解を深められます。

キャリア自律の一歩目を踏み出す

なりたい自分の姿を具体的に描き、強みや足りないスキル・経験を把握できたら、実際に行動することが大切です。キャリア自律の一歩目として、例をあげてみました。

  • 転職サイトや転職エージェントを利用して、自分のスキルや経験の市場価値を把握する
  • キャリアアドバイザーのカウンセリングを受け、転職の相談をする
  • 自分のありたい姿と現在のギャップを埋めるため、必要な知識の習得や学習をはじめる
  • 複業をスタートさせ、本業以外にもキャリアの幅を広げる

キャリア自律に取り組むには、考えるだけでなく、実際にアクションを起こさなければなりません。

いまの自分にできることから小さくスタートし、目標に向かって一歩ずつステップアップしていきましょう。

キャリア自律の3つのメリット

キャリア自律の3つのメリット

キャリア自律にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

キャリア自律のメリットとして下記の3つを解説していきます。

  • 企業に依存しなくていい
  • 主体性を持って働ける
  • ワークライフバランスが整う

企業に依存しなくていい

自らの意思でキャリア形成のための学習やスキル習得ができていれば、企業に依存しない働き方を選択できるようになります。

学習意欲が低く、スキルや経験が乏しいと、転職や独立への可能性が狭まってしまうため、企業に依存して働き続けなければなりません。

キャリア自律が実現すると、突然の会社倒産やリストラへのリスクヘッジにもなります。

転職だけでなく、フリーランスや起業の道も検討できるため、企業の動向に左右されることなく、自分のキャリアを継続していけるのです。

主体性を持って働ける

キャリア自律ができると、主体性を持って働けるようになります。

キャリア自律では、企業やチームのためでなく、自分のキャリアプランにもとづいた目標をクリアすることに焦点がおかれるため、自身を成長させることに集中できるのです。

  • 日常の業務もスキルアップの意識で積極的に取り組める
  • 学習意欲が高まり、業務に関する知識や理解が深くなる
  • 目標達成に向けて積極的なアクションが起こせるようになる

自分のキャリアと向き合い、目標を達成しようとする能動的な姿勢が、主体的な働きにつながるのは、キャリア自律のメリットと言えるでしょう。

ワークライフバランスが整う

キャリア自律によって、ワークライフバランスが整いやすくなります。

専門性の高いスキルの習得や経験の蓄積を意識的に行っていると、自身のライフスタイルに合わせた働き方の選択肢を増やせるようになるのです。

転職してフルフレックス制度を取り入れている企業に入る、フリーランスや起業で仕事のスケジュールは自分で決める、などさまざまな働き方を選べます。

キャリア自律ができると、企業に依存しない働き方が可能になり、ワークライフバランスを整えやすくなります。

キャリア自律をめぐる企業の課題

キャリア自律をめぐる企業の課題

キャリア自律においては、企業側が解決・改善しなければならない課題もあります。

ここでは、キャリア自律をめぐる企業の課題について解説していきます。

マネジメント層の理解が足りない

自分はキャリア自律への意識が高いものの、マネジメント層の理解が低いため、行動を起こしにくくなっている可能性があります。

上司が部下の長期的なキャリア形成に対する重要性を認識しておらず、目の前にある短期的な目標達成にフォーカスした指導しかできないのです。

日常の業務に追われるとスキルアップするチャンスや学習の時間が取れず、キャリアに対する意識が低下してしまいます。

キャリア自律に対するマネジメント層の意識を改善するには、企業で研修やワークショップの機会を設けて、理解を深められるように働きかけることが重要です。

会社への帰属意識が薄くなりやすい(離職率が上がると勘違いしている)

企業がキャリア自律を進めると、離職率が上がってしまうと勘違いしているケースがあります。

しかし、パーソル総合研究所の「従業員のキャリア自律に関する定量調査」によると「キャリア自律度が高い就業者は、個人パフォーマンス(自己評価)やワーク・エンゲイジメント、学習意欲、仕事充実感が高く、人生満足度も高い」ことがわかっています。

参考:パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査」

企業がキャリア開発支援を行うことが、社員の仕事に対する満足度を高めると知らずに、離職率が上がることを恐れて実施に踏み切れない、という誤解が生じているのです。

教育制度が整っていない

キャリア自律を支援しようとしても、企業に教育制度が整っていない場合があります。

日本的な雇用制度では、企業が理想とする人材を育てることに注力してきたため、キャリア教育は企業側の都合で行われ、社員は受け身の体制でした。

キャリア自律の推進においては、社員は自分の成長のために、仕事を通して必要なスキルを習得しようと活動するので、その要望に対応できる教育体制が整っていないのです。

企業がキャリア自律を進めるためには、社員が適切な経験や学習を得られる機会が与えられる体制を作る必要があります。

柔軟な人事制度が整っていない

キャリア自律に対応できる、柔軟な人事制度の整備に課題があります。

主体的にキャリア形成に取り組む社員は、自分の強みをより活かせたり、新たなスキルを習得できたりするポジションを積極的に求めます。

しかし、社員の希望するポジションがあるとは限らず、簡単に移動できるとは言えないでしょう。

社員のキャリア自律を支援するのであれば、ジョブローテーションや自己申告制度、社内公募制度などを導入し、人事制度に柔軟性を持たせることが大切になります。

ジョブディスクリプションが定まらない

キャリア自律をめぐる企業の課題として、明確なジョブディスクリプションを定められないことも挙げられます。

日本では企業が人を雇っているため、海外のようにポジション単位で人を雇う制度と違い、具体的な業務内容は部署内で引き継がれ、言語化されることなく曖昧になっているのです。

ジョブディスクリプションが定まらなければ、社員のキャリア形成における目標が見えにくくなってしまいます。

企業は、社内のポストやポジションの透明性を確保するためにも業務内容を言語化し、人事で一括管理して社員が閲覧できるようにするなど、企業の対応が求められています。

社員のキャリア自律を促す「ビオトープ・モデル」

パーソル総合研究所では「従業員のキャリア自律に関する定量調査」の中で、社員のキャリア自律を「ビオトープ」(生物生息空間)で植物が育つ過程に例えています。

参考:パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査」

お互いを尊重しあう企業風土を「土壌」に、個人が根を張り、植物が育つようにキャリア自律が促進されていく、というイメージです。

ビオトープ・モデルでは、植物を育てるために大切な「肥料」と「水やり」も、キャリア自律の取り組みに例えられています。

参考:パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査」

植物の成長のために土壌に与える「肥料」は、研修訓練や越境学習、意思を反映する異動配置など、企業が社員のキャリア自律を支援する施策に当てはまります。

参考:パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査」

日々の「水やり」は、期待の伝達やビジョンの共有、理解とフィードバックという、毎日の業務での現場マネジメントになります。

土壌(企業)に根を張る植物(個人)は、自分の力で成長することも可能ですが、肥料(研修など)や日々の水やり(マネジメント)を受けることで、太く大きく育っていくのです。

社員のキャリア自律を支援するステップ

社員のキャリア自律を支援するステップ

ここまで、キャリア自律における企業の課題を解説してきました。

企業が社員のキャリア自律を支援するためのステップを、ここで紹介していきます。

現状の組織の課題を明確化する

キャリア自律を促すためには、企業と社員にどのような課題があるのかを明確化する必要があります。

課題の発見には、下記のようなアプローチが考えられます。

  • 従業員エンゲージメントを測定し、企業に対する信頼度や貢献意欲を把握する
  • 従業員満足度を測り、労働環境や働きがいなどの企業に対する満足度を理解する
  • 社員のキャリア形成に対する意識を調査し、問題点や潜在的な要望を捉える

企業と社員のギャップを把握することで、具体的に取り組むべき課題が見えると、適切な解決方法を導き出せます。

まずは組織内の現状を把握することが重要です。

理想の組織像を描く

キャリア自律においては、個人が将来のキャリアプランを立てるように、企業も理想の組織像を描く必要があります。

目指す方向が定まらなければ、施策を打ち出しても単発的になりやすく、社員からの理解も得にくくなってしまうでしょう。

企業として社員にどのような姿勢で働いてもらいたいのか、その実現に向けて企業としてあるべき姿は何か、というビジョンや理想像を描いておくのです。

理想の組織像と社員の現状とのギャップを埋める施策によって、社員のキャリア自律に対する意識を変えていけるでしょう。

アセスメントやキャリア研修を導入する

社員がキャリア自律に取り組む際に、はじめの一歩として、自分の価値観や強みを把握するための自己理解を深めることが大切です。

自己理解のために有効な方法として、アセスメントやキャリア研修が挙げられます。

客観的な評価・分析により、社員の価値観や強みを整理整頓するのに役立つのがアセスメントです。

キャリア研修では、講師が指導に入ることで、社員が講座やワークショップをとおして多くの気付きが得られる機会を提供できます。

社員が自分のキャリアへの関心を高め、行動に移すためには、アセスメントとキャリア研修を組み合わせた継続的な支援が有効です。

ジョブローテーションなどのCDPを実施する

企業によるキャリア自律推進のひとつとして、社員の新たな能力を見出すために、いままでとは異なる職務を与えるという方法があります。

社員の希望や適正を考慮して、計画的に能力を開発する「CDP(Career Development Program)」の制度を下記にまとめました。

制度内容
ジョブローテーション人事計画に基づいた定期的な配置転換により、社員の能力開発を行う戦略的な人事異動
自己申告制度社員が業績に対する自己評価、スキルや経験に関するキャリア形成の意向、部署や職種の希望などを企業へ申告する制度
社内公募制度募集しているポジションを社内で公表し、社員からの応募を受け付ける制度
社内FA制度社員が希望する部署や職種に自分のスキルや経験を売り込み、移動や転籍によってポジションを獲得できる人事制度

CDPは、社員の適性やキャリアプランに対する希望と、企業側の意向を調整しながら、キャリア自律を促進していけるプログラムと言えるでしょう。

キャリアカウンセリングやコーチング、メンター制度を導入する

キャリア自律に対する社員のマインドを整える機会の提供として、キャリアカウンセリングやコーチング、メンター制度を導入する方法があります。

キャリア自律では、キャリア形成に取り組む必要性を理解して、社員が自らの意思で主体的に行動し、継続しなければなりません。

アセスメントやキャリア研修はスポットの施策なので、社員が日常業務に戻った後のフォローアップはないのが一般的です。

そのため、定期的なキャリアカウンセリングやコーチング、メンターとの面談によって、

  • 進行状況の確認
  • つまづいている問題の解決策
  • 次のステップとして取るべき行動

などを明確にしながらキャリア自律に取り組めます。

社員の継続的なキャリア形成のため、キャリアカウンセリングやコーチング、メンター制度を導入することが効果的です。

複業(副業)や兼業などの制限を撤廃する

複業(副業)や兼業などの制限を撤廃することも、キャリア自律のために有効な方法です。

複業(副業)や兼業の活動では、企業内では得られない刺激を受ける機会創出になり、社員のキャリアの可能性を広げる道筋になります。

  • 新しい経験やスキルを得られる
  • 人的ネットワークが広がる
  • 主体的に取り組む姿勢が身に付く

複業(副業)や兼業=副収入というイメージもありますが、金銭的なメリット以上にキャリア形成における効果が大きいと考えられます。

個人の活動が結果的に企業へ還元されることを見据えて、社員の複業(副業)や兼業などの制限撤廃を検討するとよいでしょう。

e-ラーニングなどの学習機会を提供する

忙しい社員に向けて、企業が学習機会を提供するのは、キャリア自律にとって大切な支援です。

社会人が何かを学習する、学びなおしをする場合、スクールに通って高額の授業料を払うなど、時間的・金銭的な負担が大きくなります。

学習意欲が高い社員に対して、学習機会を提供することは、キャリア自律を推進する企業にとって重要な取り組みです。

企業で提供できる学習機会として、下記が挙げられます。

  • e-ラーニング
  • 社内スクール・勉強会
  • LXP(Learning Experience Platform=学習体験プラットフォーム)の導入

受講を希望する社員の目的や経済的な状況に合わせて、学習スタイルを選択できるような体制を整えて、自由度を持たせておくとよいでしょう。

キャリア自律を支援する企業の事例

キャリア自律を意識するなら、厚生労働省が実施するグッドキャリア企業アワードの受賞企業を参照することもおすすめします。

グッドキャリア企業アワードの受賞企業には、社員のキャリア自律を支援する企業の先進事例として、社員と企業の未来を見越した取り組みに関するヒントが詰まっています。

ここでは、グッドキャリア企業アワードの受賞企業以外も含め、

  • 株式会社カインズ
  • ソニー株式会社
  • JTBグループ

のキャリア自律に関する取り組みを紹介していきます。

事例1:株式会社カインズ「DIY HR®」

自律型組織への変革を目指す、株式会社カインズによる「DIY HR®」をご紹介します。

DIY HR®は、いままで本部主導の典型的なチェーンストア型だった組織を、市場ニーズの多様化に対応できる自律型組織へ転換していく取り組みです。

DIY HR®について、下記にまとめました。

目的 すべてを本部が主導してきた典型的なチェーンストア型の組織風土を、多様化する市場のニーズに対応できる自律型組織へと大きく転換する。
理想像 現場が自分たちで考えて自走する、自律的な組織へと生まれ変わる上司の指示をすばやく正確に実行できる人ではなく、自分で考えて自律的な行動ができる人が評価される組織へ。
コンセプト DIY Career Path® 自分のキャリアは自分で考える。
DIY Learning® その達成に向けて自主的に学ぶ。
DIY Communication® 1on1ミーティングをコミュニケーションのベースとして個に向き合う。
DIY Workstyle® 自分のライフスタイルやライフイベントに応じた働き方をする。
DIY Well-being® 自分や家族の健康を守り、自己実現と社会的貢献の両方を満たすことで充実した生き方を実現する。
キャリア支援
  • 社内公募型の異動制度
  • 学びを支援するプラットフォームを用意

組織の風土転換に課題を抱えている企業にとって、DIY HR®は参考になる事例と言えます。

事例2:ソニー株式会社「キャリア・カンバス・プログラム」

ソニー株式会社で展開された「キャリア・カンバス・プログラム」をご紹介します。

ソニーでは、社内におけるベテラン社員の割合が大きくなったことを受け、ベテラン・シニア社員を活性化する施策を打ち出しています。

キャリア・カンバス・プログラムの内容を下記にまとめました。

目的 社内で割合が大きくなったベテラン・シニア社員の活性化
キーワード 「自律」会社から与えられた言われたように人生を送るのではなく、自律的にキャリアを広げられるよう、自分の道を自分で考える。
取り組み1:新しい分野への挑戦を促す キャリアプラス 業務時間の2〜3割を使って希望する別の仕事を兼務できる。
Re-Creationファンド 50歳以上の社員が新たなスキルを取得のための費用を一部補助。
取り組み2:キャリア形成を支援する ワークショップ型研修。 50~57歳の社員を対象にキャリア形成のサポートを行う。
キャリアメンター制度 受講者の専任メンターが研修フォローアップや課題についての相談を行う。
ボトムアップ活動 社員同士が自主的に集まり、勉強会や見学会の企画・実行する。

参考:日本の人事部 ソニーによるベテラン社員のキャリア支援施策「キャリア・カンバス・プログラム」

社員全体の年齢構成に対する課題に向き合い、ベテラン・シニア社員のキャリア自律を促すことで、社内の活性化にもつながる施策の好事例と言えるでしょう。

事例3:JTBグループ「JTBユニバーシティ」

株式会社JTBでは「JTBユニバーシティ」という、社員へ学びの機会を広く提供し、人材育成につなげる取り組みが行われています。

JTBユニバーシティについて、下記にまとめました。

目的広くツーリズム産業の発展に貢献する人財育成を目指す
概要『世代を問わず社内外で活躍し続ける市場価値の高い』スキルや経験に挑戦をする『自律創造型社員』を育成するための学びの機会を提供
特徴海外や専門領域への挑戦機会を含む、社員の能力や階層に合わせて成長できるカリキュラム
形式集合研修ウェビナーe-ラーニング通信教育派遣研修資格取得の費用補助など
コンテンツグループ経営理念マネジメントビジネススキル事業推進キャリアデザイン高度な専門人財育成
参考:JTB公式HP学び・人材育成

JTBユニバーシティは、JTBグループの人財育成における基本理念である「社員の成長・活力が会社の成長、グループの発展を支える」(公式HPより)に沿った施策と言えるでしょう。

さいごに

キャリア自律は、自らの意思で環境変化に適応しながら主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組むことです。

日本の雇用制度の変革や人生100年時代における働き方の多様化など、社会的な背景からもキャリア自律の注目度が高まっています。

キャリア自律の実現には、なりたい姿を描き、理想と現実のギャップを認識した上で目標設定し、一歩を踏み出すことが大切です。

キャリア自律は個人の取り組みだけでなく、企業の活動としても重要になっています。

しかし、キャリア自律をめぐる課題解決は簡単でなく、企業の将来像や目的に沿ったステップを踏みながら推進していく必要があります。

キャリア自律の重要性を理解し、主体的なキャリア形成に取り組みましょう。